第4章 堅実な生活
第4節 健やかな暮らし

第2項 医療

供給要因(病床・医師数)が決定する医療費
―国民医療費の推移―



入院が多い割には低い医療費
―一人当たり医療費の推移―

 一人当たり国民医療費は、1990年代半ばから頭打ちとなり(抑制され)、2000年代に入って介護保険の導入もあり減少となった。しかし、2005年には1999年の水準に戻り、2008年度は若干の増加にとどまっている。
 2008年の一人当たり国民医療費は、富山で275千円/人であり、全国の273千円/人比して若干高いが、都道府県の中では28番目で中間に位置している。

 人口の高齢化が進む中での医療費の増加が軽微にとどまっていることは、患者、医療機関、保険機構それぞれに多様な困難をもたらしており、制度の根本的改革が求められている。2011年現在では、後期高齢者医療の保険制度の改革が特に課題となっており、その保険制度の区分、保険者の在り方などが模索されている。


 一人当たり国民医療費は、都道府県別には、九州、四国及び北海道で高く、大都市圏で低くなっている。



 都道府県毎の医療費の多寡については、高齢化比率を始め多様な角度から分析できるが、医療費に占める入院費の割合も大きく影響している。


 北陸3県では、入院費の比率が高い割には、医療費は相対的に低いものとなっている。


(統計データ)

(Feb.18,2011)



 医療費は、高齢化が進むほど、医療需要が増え、大きくなりそうで、一定の相関がありそうである。
 しかし、高齢化比率が低い北海道で医療費が高く、高齢化比率が低い東北で医療費が低いなどのくい違いもある。

 →参考;後期高齢者の医療費の分析


 高齢化比率と医療費の相関(R2)をとると49%の説明力となっている。



 一方、医療の供給側の要因のうち施設として、人口当たり病床数を見ると、九州・四国で多く、大都市圏で少ないとともに、北海道で多く、東北で少ないなど医療費との整合性がある。


 人口当たり病床数と医療費の相関(R2)を採ると86%とかなり高い説明力となっている。
 このため、これまで、医療費抑制策として、病床の抑制が図られてきた経緯がある。



 また、供給側の要因のうち医療従事者として、人口当たり医師数を見ると、九州・四国で多いが、北海道・東北で低いなどのくい違いがある。また、首都圏では東京のみが高く、周辺県で極めて低くなっている。


 人口当たり医師数と医療費の相関(R2)をとると49%と、高齢化比率の場合と等しくなっている。


*;人口比@



A



B




C



D



E


F




G





H


I





医療費*1.000











高齢者*0.699 1.000







非健康者*0.635 0.658 1.000






有訴者*0.395 0.223 0.730 1.000





通院者*0.298 0.483 0.691 0.648 1.000








病床*0.925 0.667 0.479 0.178 0.075 1.000



入院者比率0.758 0.542 0.298 -0.002 -0.183 0.882 1.000


平均在院日数0.705 0.439 0.249 0.118 -0.022 0.786 0.744 1.000



医師*0.699 0.353 0.525 0.414 0.110 0.624 0.559 0.435 1.000
看護士等*0.899 0.728 0.510 0.203 0.080 0.966 0.870 0.709 0.618 1.000
 医療費とその水準を決定すると考えられる各種指標の都道府県統計について相関をとったものが右表である。
 医療費の説明変数としては、まず人口当たり病床があげられ、供給要因としての施設関連の指標はこれで代表させることができよう。看護士等の相関が高いが、病床との相関が極めて高く、追加的説明変数とならない。次いで、需要要因としての高齢者比率及び供給要因としての従事者指標の医師が並ぶが、それぞれの病床との相関は医師の方がやや低く、追加的説明力がやや高い。

国民医療費;厚生労働省「国民医療費」2005
人口、高齢化比率;総務省「推計人口」各年,「国勢調査」2005
非健康者(生活に影響がある者)・有訴者・通院者;厚生労働省「国民生活基礎調査」2007
病床(病院・一般診療所病床);厚生労働省「医療施設調査・病院報告」2006
入院者比率(入院・外来患者数(患者住所地));厚生労働省「患者調査」2005
平均在院日数:厚生労働省「医療施設調査・病院報告」2006
医師:厚生労働省「医師・歯科医師・薬剤師調査」2006
看護士等(看護士・准看護士):厚生労働省「衛生行政報告例」2006


回帰統計
係数標準誤差t P-値
医師の追加説明力
重相関 R0.938 切片140.730 9.818 14.333 0.000
重決定 R20.881 病床5.785 0.481 12.019 0.000
補正 R20.875 医師16.720 5.567 3.004 0.004
高齢者の追加説明力
重相関 R0.932 切片138.445 14.138 9.792 0.000
重決定 R20.868 病床5.979 0.531 11.263 0.000
補正 R20.862 高齢者1.668 0.835 1.997 0.052
医師・高齢者の追加説明力
重相関 R0.948 切片103.3 15.35 6.928 0.000
重決定 R20.899 病床4.794 0.5731 8.366 0.000
補正 R20.892 医師0.2051 0.0567 3.616 0.000


高齢者2.032 0.7466 2.721 0.009
 実際に、病床を含む2変数での重回帰では、医師はかろうじて意味を持つともいえよう。高齢者のみでは取り上げ難いが、病床と医師を同時に組み合わせればかなり高い相関係数となる。
 以上のように、この相関分析では、医療費の決定要因は、需要側の要因より、供給側の要因である病床、医師が働いていることとなる。
 医療施設がより多くあり、医師も多いことによって、入院者が増え、また在院日数も長くなり、結果として医療費が嵩むということである。
 さらに高齢者が、この供給要因の残余の説明力を相当程度持っている。

 なお、病床数の決定要因としては、医師数とともに高齢者数があるが、多世代親族世帯の比率も左右しており、いわゆる社会的入院需要が影響している。
 一方、医師数の決定要因としては、高齢化比率との相関は低く、病床数との相乗関係があるとともに、地域の人口当たり大学医科定員数も影響しいると見られる。


 ただし、国全体として、病床が多いことによって医療供給が促進されているとみるのか、あるいは病床が少ないことによって医療供給が抑制されているとみるのかは、ここから判断できるわけではない。医療費の抑制を主張する者は促進されているとし、一層手厚い医療供給を主張するものは抑制されているとするのであろうが、その根拠となる分析ではない。


 ちなみに富山の一人当たり国民医療費は、1990年代半ば以降、都道府県の中で相対的に、大きく低下している。


 なお、国民医療費と高齢化比率、病床数の相関については、1990年代を通じて次第に高くなってきていたが、2000年代に入って一旦低下し、2005年に再び高くなっている。これは、医療費の推移と同じパターンである。

 このような推移は、一層の高齢化進む中で高まっていく医療需要の一部分を介護保険が引き受けたということであろう。
 医療費に関連した分析については、今後は、介護保険の動向と併せて検討していくことが必要となってきている。


(統計データ)


 財政が困難に陥る中で、人口の高齢化が進み医療需要が増加しており、医療制度改革の試行錯誤が続いている。しかし、国民・県民が納得できる医療制度をどのように形成していけばいいのだろうか。
 まず、どのような水準、内容の医療までお互いに負担しようとするのか、共通認識の形成が必要と思えるが、これが容易ではない。金銭的な制約から、高額医療の限界があってもいいと考えるが、臓器移植、救急医療等々、個別的な事例を挙げて議論することが極めて難しい。一定の水準を設定しようとすると同時に、我々には医療を受けるなと言うのかという反論が必ず起こる。また、貧乏人は死ねというのかということになる。
 また、社会保障の水準に一定の合意ができるとしても、それを実現する制度の設計が難しい。現状では、複数の健康保険制度、介護保険制度があり、さらに後期高齢者医療保険制度も加えて、制度自体が煩雑で理解困難となってきている。次いで、実際に制度を構築していくことも容易ではない。複数の健康保険制度は、その発足の事情があったとしても、早期に一本化しておく必要があったと考えられるが、実現してきていない。さらに、制度の運用も難しく、例えば、厚生健康保険から離脱する企業がで始めている。
 結局は、納得いく制度を形成・運用できないために、何か不都合が起こる度に議論が起こり、部分的な改正が重ねられている。
 あるいは、我々の社会はこのような問題に対して、それなりに納得できる制度を形成・運用する能力を欠いているのかもしれない。むしろ、一定の社会的限界を納得し、弥縫策を重ねざるを得ないものだと理解した方がいいのかもしれない。
 この際、関係者が、それぞれの立場で、実態を透明にし、最善を尽くす努力をしているかどうかを評価するのみなのかもしれない。この評価を抜きにして非難のみ燃え上がらせても混乱するだけであろう。そして、一方で、社会システム全体として捉える努力を忘れてはならない。

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(Feb.18,2011Rev./Mar.12,2005.Re-Ed.)